株式会社アニメイトは、クラウドファンディングサイト「ソレオス」にて、人気TRPGシナリオ『ようこそ!迷冥市役所都市伝説課へ!』のグッズ化プロジェクトを実施した。
近年、TRPGシナリオが朗読劇やアニメ映画へと発展する事例も珍しくない。
本記事では、こうしたメディアミックスの傾向とTRPG原作の広がり方を解説するとともに、『迷冥市役所都市伝説課』が持つ唯一無二の魅力に迫る。
『ようこそ!迷冥市役所都市伝説課へ!』とは?クトゥルフ神話TRPGの名作シナリオ
まずは、多くのプレイヤーを惹きつける本作の基本的な情報と、その魅力の核心に迫る。
シナリオの基本情報と魅力
『ようこそ!迷冥市役所都市伝説課へ!』は、作者「プラネタリウム(夜空)」氏によるクトゥルフ神話TRPG用の2人用シナリオである。
プレイヤーは架空の都市「迷冥市」の市役所職員となり、先輩と新人のバディを組んで都市伝説に挑む。
このシナリオ最大の魅力は、「市役所職員が都市伝説と戦う」というユニークな設定である。
さらに、先輩・後輩の関係性を深く楽しめる「バディもの」の物語である点も、多くのファンを惹きつける要因となっている。
プレイヤー評価と口コミ・感想
本作は多くのプレイヤーが「情緒をめちゃくちゃにされた」「最高のバディ体験だった」といった熱狂的な感想をSNSなどに寄せている。
また、プレイヤーの選択が結末を左右するマルチエンディング方式は、セッションごとに異なる物語を紡ぎ出す。
この「自分の知らない物語」の存在が、ファンを強く惹きつけ、コミュニティでの議論や交流を活発にする要因となっている。
作者「プラネタリウム(夜空)」について
作者のプラネタリウム(夜空)氏は、クリエイターが作品を販売できるプラットフォーム「BOOTH」などで多数のTRPGシナリオを公開している、人気のクリエイターである。
プレイヤーがキャラクターに愛着を持って長く遊べるような、独創的な世界観のシナリオ制作を得意とする。
ソレオスで実現!『迷冥市役所都市伝説課』グッズ化の全貌
次に、ファンを熱狂させたクラウドファンディングプロジェクトの具体的な内容と成功の様子を見ていく。
クラウドファンディングの概要と目標達成
2025年8月1日、アニメイトグループの「ソレオス」で開始したグッズ化プロジェクトは、開始後わずか3時間で目標金額を達成した。
これは、インディー作品であっても熱心なファンがいれば商業的な価値を生み出せることを明確に示した事例だ。
リターン品の紹介(ピンバッジ・キープレート・御朱印帳など)
引用元:ソレオス【公式】
リターン品には、シナリオの世界観を忠実に再現したファン待望のアイテムが並んだ。
職員証を模したピンバッジや、作中に登場する神社をモチーフにした御朱印帳など、プレイヤーの体験を補強するようなグッズがファンの心を掴んだ。
さらに、実行者側は各グッズをファンが参加しやすい価格帯に設定し、「新人スターターセット」といったセット販売も行うなど、ファン目線の工夫も見られた。
「都市伝説課の職員になる」という明確なコンセプトが、これらのグッズ展開と相まってプロジェクトの成功を力強く後押ししたのである。
なぜ『迷冥市役所都市伝説課』がグッズ化されたのか?
この成功の裏には、どのような要因があったのか。その理由を3つの側面から分析する。
シナリオの持つ独特の世界観と設定
成功の根幹には、シナリオ自体が持つ圧倒的な魅力がある。
「市役所」という日常と「都市伝説」という非日常が融合した世界観が、プレイヤーに強烈な没入感を与えた。
この日常と非日常の境界線が曖昧になる感覚こそが、多くのファンを惹きつけた源泉である。
ファンコミュニティの熱量と支持
2020年の公開以来、ファンは二次創作やリプレイ動画を活発に投稿し、強固なコミュニティを形成してきた。
この熱量の高いコミュニティの存在が、クラウドファンディングという形で可視化され、今回の成功に直結した。
商業的価値とマーケティング的魅力
アニメ・グッズ制作大手のムービックが実行者となり、アニメイトグループのプラットフォームを活用したことも大きな要因である。
TRPGシナリオというジャンルに対し、クラウドファンディングでファンの需要を直接汲み取るという、ファン参加型の新しいマーケティングモデルの成功例と言える。
TRPGからメディアミックスへ:成功事例に学ぶIP化の現状と未来
本作の成功は単発のものではない。TRPG界隈におけるIP(知的財産)化の流れと、参考となる事例を考察する。
TRPG原作の朗読劇・舞台化事例
TRPGシナリオのメディアミックスは以前から試みられており、「クトルゥフ朗読劇 華蝕の匣~白磁の記憶~」のように朗読劇として上演された事例も存在する。
シナリオが持つ物語性を活かし、舞台上で表現する動きは着実に広がっている。
アニメ映画化への発展パターン
TRPGシナリオから大規模なメディアミックスへ。その代表的な先行事例が、『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』のアニメ映画化プロジェクトである。
このプロジェクトは、クリエイター個人の発案から始まり、クラウドファンディングでファンを巻き込んで巨額の資金調達に成功した。
この事例は、TRPGシナリオが大規模なメディアミックスに到達しうる可能性を証明している。それだけでなく、ファンと共に巨大プロジェクトへ育て上げるプロセスそのものが、『迷冥市役所』が目指す未来の良い手本となるだろう。
グッズ展開から始まるIPビジネスの可能性
今回の『迷冥市役所』の事例は、まずグッズ化で市場の反応を試し、ファンの熱量を確認する。
そして次の展開に進むという、堅実かつ効果的なIPビジネスの可能性を示している。
ファンと共に育てる、インディーコンテンツのIP化戦略
『迷冥市役所』の成功は、新しいIP化戦略を示している。それは「ファン主導」でコンテンツを育てるという手法である。
クリエイターの世界観をファンが応援し、クラウドファンディングで需要を示す。このように、ファンが「推し」の成長に直接関われる体験は、プロジェクトを推し進める大きな力となるのだ。
『迷冥市役所』の成功が示す、TRPGのIP化が生む未来とメリット
今回の成功は、TRPGというジャンル全体にどのような未来をもたらすのか。
そのメリットは、作品自身の次なる展開と、業界全体への波及効果という2つの側面から見ることができる。
次なるメディアミックス展開への道筋
まず、グッズ化の成功はゴールではなく、次なるステップへの強力な追い風となる。
具体的には、朗読劇やドラマCDといった音声コンテンツへの展開が現実味を帯びてくるだろう。
特に、本作の先輩と後輩の2人を中心に進むバディものという設定は、少人数の演者で濃密な人間ドラマを描く朗読劇や舞台との相性が抜群に良い。
さらにその先には、映像化への道筋も見えてくる。
長編映画だけでなく、Web配信の短編アニメーションや、「市役所の特殊な部署」という設定を活かした実写ドラマといった選択肢も考えられ、企画としての魅力を十分に持っている。
TRPG業界全体にもたらす好影響
この成功がもたらすメリットは、作品単体にとどまらない。
IP化による最大の恩恵の一つは、作者であるクリエイターに正当な対価が還元されることだ。
成功事例が増えることは、クリエイターが創作活動に専念できる環境を育み、業界全体の質の向上に直結する。
さらに、一つの大きな成功はコミュニティ全体を活性化させる。
『迷冥市役所』の躍進は、他のシナリオ作家たちに「自分たちの作品もIPになりうる」という希望を与え、創作活動を力強く後押しするだろう。
そして、こうしたメディアミックス作品は、これまでTRPGに触れてこなかった層への最高の紹介状となる。
新たなファン層の拡大に大きく貢献することは間違いない。
まとめ:『迷冥市役所都市伝説課』が示すTRPGの新たな可能性
『ようこそ!迷冥市役所都市伝説課へ!』のグッズ化成功は、単なる一つのシナリオの成功物語ではない。
これは、個人クリエイターの情熱、ファンの熱い支持、そして企業のサポートが一体となり、インディーコンテンツがIPとして大きく羽ばたけることを証明した。
まさに、TRPGの新たな可能性を示す記念碑的な出来事だ。
ファンとクリエイターが手を取り合ってコンテンツを育て上げる、そんな新しい時代のメディアミックスが、今まさに始まろうとしている。



